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Wozは父親の影響をうけてエンジニアリング魂に目覚め、小学生のころからアマチュア無線をやったり発明工作賞みたいなのを獲りまくったりしていたのだが、中学のころからは論理回路や計算機に目覚めてその方向のハッキング力を炸裂させてたらしい。Wozはとにかく論理回路をエレガントに小さく作ることに執念を燃やす人物で、回路を実際に作ってみるだけでなく、実在する計算機を独自に紙の上でエレガントに再設計する練習をしたりしていたらしい。そういう素養を見込まれてヒューレットパッカード(HP)で電卓などを設計する仕事をしていたのだが、そのころ新たに出現したマイクロプロセッサに出会い、キーボードつきでBASICが使えてカラー表示できるパソコンを作りあげたのだそうである。
WozがApple IIを作っていたころ、私は高校のクラブでマイコンを組み立てたりしていたので、彼の当時の行動や技術について非常によくわかる。当時はマイコンが出始めた頃で、電子回路マニアはこぞってマイコンに手を出したものである。私のクラブではメンバ数人で手分けしてBASICの動くマイコンをIntelの 8008というチップで作りあげたものだが、同じころWozははるかにエレガントなApple IIを独力で作ったというから度外れている。HPから帰社後に回路設計からBASIC言語の実装まで全部ひとりでやったということが驚きであるし、 Apple IIの回路のエレガントさやカラー生成回路の無茶さは感動的であった。
さて、いかにしてオタクのハッカーがApple IIを作りあげたかについてはよく理解できたのだが、Apple IIを設計するに至るまでの話が全体の2/3ぐらいを占めており、スキャンダル的に期待した話は全く知ることができなかった。Jobsとどうやって知り合ったかとかどういう話をしたかなどについてはほとんど出てこないし、Apple IIの成功の後の話もほとんど書かれていない。「Macintosh」という単語がそもそもほとんど出てこないし、Lisaという単語は最後に一度だけしか出てこなかった。Macintoshという単語が出たのは、Macintoshの開発に金が回された結果Apple IIの部隊が冷遇されたという文脈の中でだけである。Appleお家芸の内紛話も全く出てこない。
このように肝心の話がおおいに抜けているので肩すかしを食ってしまった。Apple IIのすべてを自作したことはエンジニアリング的にはものすごいことではあるが、パーソナルコンピュータを「発明した」という表現をしているのは言いすぎである。すでにAltairのような市販マイコンやBasicが存在したわけだし、「発明」というよりは「凄い工夫」とか「ハッキング」という方が適切だろう。また、キーボードとディスプレイつき計算機をはじめて作ったと書いているのも言いすぎだと思う。キーボードとディスプレイつきの「安い」計算機をはじめて作ったというべきである。
離婚に至るまでの前妻との喧嘩については書いてあるのにJobsとの喧嘩について書いてないのが気持ち悪い。Apple IIのスロット数の話で喧嘩したのが最初の喧嘩だったとか書いてあるにもかかわらず、その後の喧嘩については一言も書いていない。Jobsに序文を書いてもらうつもりだったので悪口を書かなかったのかもしれないが消化に悪いことである。結局Jobsは序文を断わったそうだが。その他、何故Wozは Macintoshに全然かかわらなかったのかも不思議だし、Appleを出て作ったCloud9という会社で学習型ユニバーサルリモコンを売ろうとしたが鳴かず飛ばずだった話も尻切れとんぼだし、書いてないことが多すぎて胸がいっぱいになる。リモコンのデザインを頼んだ会社に突然Jobsが現われてリモコンを壁に投げつけたという話は出てくるのだが。
こういう疑問やら文体への文句やらが沢山 Amazon.comの書評 に掲載されているのだが、それにいちいちGina Smith氏が弁明してるのが香ばしい。自慢が多すぎると書かれたら「でも実際のWozはとってもいい人なのよ」などと返してみたり、自分でコメントしまくってAmazonの評価上げるんじゃねぇぞゴルァと言われたら慌ててコメント削除しまくったり、厨房かお前はと言いたい。厨房に国境なし。
最後にWozは、何かを発明したければ深夜にひとりで籠ってやるのが良いとアドバイスしている。それでうまくいく場合もあるかもしれないが、うまくいかないことも多そうな気はする。結局「Wozはやっぱり凄いハッカーだったのね」ということ以外なんかよくわからずに糸冬了してしまったのであった。
喧嘩話を聞きたけりゃ この映画 を見るといいのだそうな。